予備調査とは
予備調査とは、内部監査人が個別監査計画を立案するために実施する分析作業です。
自社の事業・業務とはいえ、内部監査人が監査対象の事業内容や業務内容の状況を十分に把握・理解しているとは限りません。
例えば、内部監査部門に3人しか監査人がおらず、全員が経理部門経験が長い人材であった場合、予備調査を行わずに、営業部門における最新のデジタルマーケティングの有効性を監査することは困難でしょう。
予備調査は、内部監査人が監査対象の事業・業務の概況やリスク及びコントロールを適切に理解することを助けます。そして、重要なリスクにフォーカスした付加価値の高い内部監査を行うために必要なプロセスとして多くの組織体で行われています。
予備調査のインプット
まず予備調査の最初のステップとして分析作業に必要な情報を入手・理解(インプット)します。代表的なインプットとしては次のようなものが挙げられます。
1.監査対象の基本情報
(例)監査対象の売上・費用・利益、要員数、関係法令・ガイドライン、顧客特性、情報システムの利用状況、外部委託先の利用状況、ビジネスモデル、等
2.外部環境の動向・変化
(例)市場動向、監督当局や関係法令等の変化、同業他社の動向、等
3.内部環境の動向・変化(例)組織変更、業務プロセス・規程類・マニュアル類の変更、情報システムの改修・導入、要員の増減、等
また、分析にあたっては、次のような手法を用いて重要なリスクを抽出します。
①趨勢(すうせい)分析
②異常点分析
③比較分析
それぞれの手法における具体的な分析例としては次のようなものがあります。
①趨勢分析の例(例:製造業)
(分析視点)
・中国経済の減速を背景に、市場全体が低迷している
・監査対象の事業の売上高は、3年連続して低下している
・営業部門の要員数は減少しているが、売上目標は上昇している
・今年から内部ルールを変更し、売上目標の監視(PDCA)を強化している
・コスト削減を目的に委託先を変更し、実績の少ない製造委託先が増加している
(リスクの識別)
→無理な売上目標のために、品質問題や納期遅延が発生するリスク
②異常点分析の例(例:金融業)
(分析視点)
・昨年度に監督当局から新しい事務ガイドラインが発出された
・顧客の本人確認において難易度の高い厳格な事務が求めれている
・先月に事務マニュアルを改訂し、全店に通達済みである ・今月の自己点検報告で、全店が事務マニュアルを完全に遵守し、新しい事務プロセスでの不備が0件であったとの報告があった
(リスクの識別)
→自己点検や報告内容が現場の実態を表しておらず、現場に問題が潜在するリスク
③比較分析の例(例:サービス業)
(分析視点)
・子会社AはM&Aにより取得した会社で本社から離れた地域に所在している
・今年度から子会社Aの社長が交代している
・子会社Aの経費について、1年前との比較を行ったところ、交際費と備品費がそれぞれ800%・400%増加していた
(リスクの識別)
→会社資産の不適切な使用や横領・着服するリスク
予備調査のアウトプット
予備調査のアウトプットは様々です。予備調査報告書といった正式な資料を作成する場合もありますし、簡易的なメモを作成することもあります。また、明示的にアウトプット資料を作成しない場合もあります。重要なことは資料を作成することではなく、個別監査の初期段階で監査対象の重要なリスクを識別することにあります。
予備調査のアウトプットの例
(例)予備調査報告書
(例)予備調査メモ
(例) 作成しない
内部監査人は予備調査で識別した重要なリスクを踏まえ、それらのコントロールの有効性を検証するための個別監査計画を立案します。
なお、個別監査計画書には、監査名称、監査基準日、監査実施期間、監査チーム構成といった基本事項に加え、重点監査項目といった名称を用いて、フォーカスすべき重要なリスクを挙げることが一般的です。
まとめ
内部監査で高い付加価値を発揮するには、個別監査の計画段階でいかに重要なリスクにフォーカスできるかにかかっています。予備調査はそのための重要なインプットとなり、個別監査の成否を分けるといっても過言ではありません。
内部監査人は、自ら率先して品質の良いインプットを依頼して入手し、十分な時間を投入して多角的な分析を行うことが重要です。
内部監査部門長は、このプロセスを確実に実施するために、必要な監査資源(ヒト・モノ・カネ)を確保することが求められます。監査資源を確保することで、有効な予備調査が行われ、重要なリスクにフォーカスした個別監査が実施され、結果として経営に対して高い付加価値を提供する内部監査の実践に繋がっていくでしょう。