ポストコロナを考える

 国際通貨基金(IMF)は、6月25日に国際金融安定性報告書(GFSR)改定報告書*1を公表した。

その中でIMFは、中央銀行による迅速かつ大胆な施策によって金融市場が安定を取り戻したと評価する一方で、大幅な不確実性が蔓延する中で金融市場と実体経済に乖離が生じているとした。特に日米の株式市場や欧米のハイイールド社債の価格は、IMFモデルでは大幅に割高(Over-stretched)で過去最高水準に近くなっているとして、マーケットの楽観論に警鐘を鳴らした。

 確かに、ここにきての株式市場の回復スピードは多くの人の予想に反するものであり、経済の先行き不透明感が強い中で、説明できない部分があることは否めない。しかしながら、筆者はこれまでの経験から、マーケットのことはマーケットに聞くしかなく、国際機関や政府はマーケットを評価はすべきではないし、またこうした機関による結果を我々は信頼すべきではないと考えている。

 報告書では、パンデミックによって過去に蓄積された脆弱性の顕在化の可能性として、大幅な経済収縮とそれに続く債務不履行と銀行の健全性悪化、さらにはその他の金融セクターへのストレスがかかる可能性を指摘している。本当にそのようなことが発生する蓋然性は高いのであろうか。

 新型コロナの感染によって都市封鎖や移動の制限からに消費活動や生産活動が停止ないし抑制され、経済の稼働水準が大幅に低下した。しかし、ここにきて多くの先進国で経済活動が戻りつつあり、経済対策として出動した各国政府の支援策は総額約11兆ドルと、2019年の世界総生産87兆ドルに対し約12%に相当する規模の財政支出であり、落ち込んだ需要を補うには十分な規模と言えよう。また、中央銀行の信用供与も従来の枠組みよりさらに踏み込んだリスクの高い資産購入などで対応し、信用不安を払拭している。マーケットは年初以降、大きく資産価値を下げたが、これらの各国が実施してきた財政政策や金融政策を高く評価した結果として、資産価格は回復したと判断すべきであろう。

 では、IMFが割高と判断してしまったのは、なぜであろうか。モデルの中身はわからないので、あくまで推測であるが、パンデミックによる経済活動の鈍化予想をベースに企業収益の低下を見込み企業価値の減価を見込む一方、パンデミック後の経済で成長する分野などプラス面を過小に評価している、あるいは評価していないのではないか。経済を予測する場合でもよくあるケースだが、基本的には予測の前提条件は現在把握できている要因をベースに考えるしかなく、新しく発生する需要や産業構造のシフトなどを考慮することは極めて困難で、通常不可能だ。したがって経済構造が大きく変化する、あるいは想定していない新たな要因が加わるなどの局面では予測が狂うこととなる。

 今後の経済については、現時点で誰も正確な予測などできず、過度な楽観論は慎むべきであるが、新型コロナに関していえば、年後半に第二波が来たとしてもその悪影響は第一波よりも格段に小さいものにとどまるはずである。新型コロナの研究は世界中の専門家が取り組み、実態解明も進むであろうし、治療方法、治療薬などの知見も着実に増えている。なによりも企業や個人は、Withコロナの新常態を模索し、新しい生活様式を身に着け始めている。加えてたとえ第二波が来たとしても、各国の中央銀行や政府支援は、追加支援を躊躇なく実施することをコミットしているのである。

 むしろ筆者が気がかりなのは、新型コロナの悪影響に対する過度の警戒感と先行きへの不安から消費や投資を控えて需要が戻らないことである。いま、国民に求められていることは、支給された特別給付金は落ち込んだ需要を補填するものであるから貯蓄に回さず積極的に使うこと、そして中長期的にはこの新型コロナを契機にしてより一層テクノロジーを活用した効率的かつ利便性の高い経済構造へと変革し、経済を軌道にのせていくことであろう。

北野大地

北野大地KITANO Daichi

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大手銀行、シンクタンク、政府機関において、マーケット、国際金融、金融行政などの分野で幅広いキャリアを積み、現在は主に金融機関への内部監査に関するコンサルタント業務を行っている。
公認内部監査人(CIA)

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