最終講(全6講)企業風土監査の薦め ~企業価値の向上と毀損防止・企業変革へ向けて~

一般社団法人GBL研究所 理事
渡辺樹一
(わたなべじゅいち)

最終回となりました。第6講では、企業風土監査の分析結果を踏まえた企業風土改革の具体策案の策定とその実施をどのように行うか等についてお話しします。

企業風土改革の具体策

企業風土監査を実施した後の進め方は、監査結果のまとめと経営トップへの報告⇒経営トップによる企業風土改革の施策の決定と企業風土改革の実践ということとなりますが、企業風土改革の内容については、当然、企業の業容や規模、目標とする企業文化や風土、それらに影響を与える企業の成り立ちや株主構成等により異なるものと思います。 

図表4は、企業風土監査の実施から企業風土改革の実施までの流れを例示したもので画一的なものではありませんがご参考としていただければと思います。ここで重要と思われるのは、内部監査部門が、経営企画部門や人事総務部門、法務部門等社内の関連部門との深い連携のもと、調査・分析結果を踏まえた企業風土改革の対策案を監査報告書に織り込むことです。この対策案は、これらの部門の共作としても良いかもしれません。担当役員が対策案を承認することは、実施に向けての組織横断的なサポートを得ることとなるからです。

【図表4:企業風土監査の実施から企業風土改革の実施まで(例)】

なお、企業風土改革の具体策策定にあたってご参考となるかもしれない事項を以下お伝えすることで今回の連載を締めくくりたいと思います。

(1) 組織の閉鎖性の弊害の克服

企業風土改革の一環として、第3講でお伝えした組織の閉鎖性の弊害を克服する施策としては、以下のようなものがあります。

  1. 大規模な組織においては、部門の心理的な境界を柔軟で流動的にしておく。社員の移動や他部門との絆を深められる場所や制度を設ける。
  2. 各部門が情報を抱え込み過ぎるとリスクが蓄積されるため、インサイダー情報等事業運営上問題のある情報を除いて、極力問題のない範囲で全員がより多くのデータを共有し必要に応じて活⽤できるようにする。
  3. 組織体系や分類を定期的に見直す。それらについて、時代の変化に即した、社員の視野が広がる、イノベーションが生まれるような見直しを行う。
  4. 大規模ではない組織においては、期間限定目的達成型の組織横断的なプロジェクトチームの編成を行う。 (製品開発、市場調査、業務提携、M&Aなど)
  5. 報酬制度やインセンティブについて、組織同士が社内で競争関係に陥らないよう、組織同士が協力し合うことを促すような協調重視の制度を考慮する。
  6. フォアフロントミーティングやダイレクトトークなど経営陣や経営トップが現場の従業員と直接語り合う機会を定期的に作る。
  7. 子会社、特に海外拠点とは、シナジー創出の観点から、議論する場をできる限り多く設ける(Web会議の活用はとても有効)

(2) 数値目標達成へのプレッシャーの掛け方

第1講の「企業文化に影響をもたらすもの、(1)明示的な経営理念・行動指針と乖離した行動文化」で述べた「数値目標達成へのプレッシャー」は、その掛け方次第では企業文化・風土に負の影響を与えます。

施策は、企業価値向上のための合理的な事業計画の策定と実のある予実管理となりますが、以下の2点が重要です。

数値目標の妥当性の確保

利益があってこその経営ですが、数値目標を設定する際、人員や設備、技術上の能力、市場規模や商品力等の面から妥当性のある目標を、事業部門のコンセンサスのもとに設定することが肝要です。これは、現場に対して健全で合理的なプレッシャー、説明責任と達成感を与え、また、不正の正当化を排除します。なお、過度な成果主義は、「従業員が敢えてリスクの高い行動を選択、あるいはコンプライアンスに違背する等の行動を誘発する」、「従業員の行動を監視すべき立場にある管理者が、自らも成果主義の影響を受けることによって、その監督機能を喪失し、内部統制の弱体化と第一のディフェンスラインの喪失を引き起こす」という2つのリスクがあるので要注意です。

「目標管理」

設定した⽬標の達成の度合いの予実分析、管理を⾏うことで改善活動を促すものですから、利益の増加、即ち企業価値の向上に繋がります。なお、重要なことですが、当期の施策は、当期と将来の数字に繋がるわけですから、目標管理は、定量面(数値目標)だけではなく、定性面(アクションプラン)の両面から進捗管理を行うことが肝要です。

(3)人事考課の評価対象の追加

人事考課は、経営者が役職員に会社が求める価値観(企業文化)を知らせる手段でもあります。上司に対しても積極的に意見を具申でき、誤りがあれば指摘できる職場環境であることが、危機の未然防止につながり企業価値を高めるという意識を社内で共有するべく、例えば、以下の施策を実施するが考えられます。

  • 人事考課の評価対象に「上司に対して積極的に意見を具申したか」という項目を、また、「部下の意見を積極的に聞く 姿勢があったか」という項目を追加する。
  • 階層別人事研修等にて実施しているマネジメント研修に、上司又は部下として上記①の意識の重要性を教育する内容を追加する。

以上で連載を終了致します。皆様の一助となれば幸いです。お読みいただきまことにありがとうございました。

渡辺樹一

渡辺樹一WATANABE Juichi

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渡辺樹一コンサルティング事務所 代表
一般社団法人GBL研究所 理事
米国公認会計士、公認内部監査人、公認不正検査士

一橋大学法学部卒業、伊藤忠商事他企業を経て、現在は、コンサルタントとして取締役会評価、内部統制構築支援、上場企業の役員研修・幹部社員研修等に従事。早稲田大学非常勤講師、東証一部及びJASDAQ上場会社の社外取締役、株式会社ジャパン・ビジネス・アシュアランスのシニアアドバイザーなども務める。

日本取締役協会会員、実践コーポレートガバナンス研究会会員、会社役員育成機構会員、日本内部監査協会会員、日本公認不正検査士協会会員

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