
一般社団法人GBL研究所 理事
渡辺樹一(わたなべじゅいち)
本稿以降では、企業風土監査の手法から監査結果の報告までの手法、および、その結果を企業風土改革の具体策策定と実施にどう繋げていくか等についてお話しさせていただきます。
目次
企業風土監査の手法
企業風土監査は、「役職員の意識調査」⇒「意識調査結果の分析」⇒(予備的な分析結果についての役職員へのフィードバックと必要に応じた特定役職員へのインタビュー)⇒「分析結果のまとめと経営トップへの報告」という手順を経て終了となりますが、本稿では、経営トップの直轄部門である内部監査部門が、経営企画部門や、人事総務部門、法務部門等と連携を図り、それら分析結果を踏まえた企業風土改革の具体策案の策定を行うまでの付託を受けるというケースにてお話しさせていただきます。
役職員の意識調査
アンケートによる意識調査は、無記名式とし、匿名性を確保することが大切ですが、回答者が所属する組織(会社と部署)や職位がわかるようにします。それにより、組織毎、職位毎の意識の違いが分かります。職位については、例えば、S(執行役員)、A(部長、担当部長、工場長)、B(次長、室長)、C(課長、担当課長)、D(課長代理、係長)、E(主任)、F(一般従業員)などに区分するなどが考えられます。その他、調査にあたっての留意点は以下の通りです。
(1) 組織開発のための有用度の高い質問に限定し、また、回答のための判断が難しい漠然とした質問や抽象的で具体性に欠ける質問は行わない。
例えば、「上司は、現状に満足することなく、変革に向けた問題意識を持っている」とその部下に問うこと(これは部下が判断できることではない)、「職場には変革に向けて問題を改善する雰囲気にある。」(変革や問題という言葉が抽象的で客観的な回答を集めにくい)、「当社をもっと良い会社にしたいと思っている。」(組織開発に関連性がない)、「会社は、協力会社を大切にしている」(「大切にしている」という言葉の意味が不明確)等の質問がそれらに該当するでしょう。
(2) 質問に対する評価は5段階評価とし、且つ自由記入欄を設けて役職員の意見(なぜそう思うのか、どうすれば良いと思うのか)を引き出す。
企業風土改革の担い手は役職員そのものですから、彼らの不満や意見をできる限り徴収することが大切です。「はい」「いいえ」と2者択一とする、4段階評価で白黒を迫るのは、役職員への心理的な負担を掛けるもので筆者としてはお薦めできません。
(3) 表裏一体の質問を組み込む
例えば、組織の風通しの良さを監査するために、一般従業員に対して「上司は、自分の意見を引き出そうとしてくれている」という質問をするのであれば、同じその部署の上司に「部下から忌憚のない意見を十分に引き出そうとしている」という質問をぶつけます。このような表裏一体の質問に対して、上下間の意識に大きな乖離がある場合は、その原因を突き止め、施策を練ることとなります。
(4) 執行役員への質問については相応の質問を組み込む。
役員間のコミュニケーションの良否そのものが企業文化であり、既述の通り、イノベーティブな組織風土や部門間シナジーに与える影響度が高いですので、相応の質問を組み込む必要があります。
アンケートの内容については、企業の業容や規模、目標とする企業文化や風土、それらに影響を与える企業の成り立ちや株主構成等により異なるものと思いますが、図表2の右側に記載したような企業文化・風土を目標とする企業のアンケート内容の一例を図表3にまとめてみましたのでご参考として下さい。




予備的な分析結果についての役職員へのフィードバックと必要に応じた特定役職員へのインタビュー
このプロセスはオプションとなりますが、分析結果を踏まえて、更なる調査が必要と判断される場合に、特定の役職員を募ってインタビューを行い、課題を明確化することが考えられます。この場合は、インタビューの効果、効率性を確保するために、予備的な分析結果を役職員にフィードバックを行ったうえで実施することが肝要です。
次回の第6講では、実施した企業風土監査の分析結果を踏まえ、企業風土改革の具体策策定と実施へどう繋げていくかについてお話しし、連載を締めくくりたいと思います。