第4講(全6講)企業風土監査の薦め
~企業価値の向上と毀損防止・企業変革へ向けて~

一般社団法人GBL研究所 理事
渡辺樹一(わたなべじゅいち)

本稿、第4講では、「内部監査部門が企業風土監査に際して考慮すべき事項」の続きとして4つの事項を取り上げます。

目次

内部監査部門が企業風土監査に際して考慮すべき事項(第3講から続く)

(4) 企業グループ経営の目的との関連性における役員間のコミュニケーションの重要性

昨年の6月に経産省から「「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」が公表されたことをご存じの方は多いことと思います。そこでの論点の一つが、グループ全体のシナジー創出であり、親会社は、親会社、子会社それぞれの役割と責任を明確化した上で、グループ会社への経営の問題提起と経営指導・支援を通じて、各社戦略目標の達成と各社間のシナジーによるグループ全体の価値向上の達成を目指すべきとされております。¹ ここで最も重要なのは、組織のトップ同士の(意見の対立を恐れない)コミュニケーションの充実化です。組織開発とエグゼクティブコーチングで有名なコーチ・エィによれば、「組織のトップ同士のコミュニケーション」と「イノベーティブな組織風土」、そして 「現場の部門間のシナジー」の3つについての相関関数は、いずれも0.7を超えているとのことであり、「組織のトップ同士の良好なコミュニケーションはイノベーティブな組織風土と 現場の部門間のシナジーを生む」ということを皆様と共有したいと思います。

参考:イノベーティブな風土と役員間のコミュニケーション

申し上げたいことは、グループシナジー創出の問題も企業風土監査の対象とすべきであるということであり、組織毎の風土に強い影響を与える執行役員レベルも対象とすべきであるということです。

(5) ハラスメント

ハラスメントは仕事のパーフォーマンスを下げる累積的で長期的な要因となります。組織の生産性に影響を与える企業内のハラスメントの状況は企業文化の一部を形成するものですから取締役会の監督事項であり、経営陣は、ハラスメントに関するリスクを適切に管理する責務を負うこととなります。権限に大きな格差がある職場ではハラスメントはより起きやすいと言われています。従業員に今まで見えていなかった事業構想を思いつけるような広い視野・高い視座・鋭い視点の取り方を研修させる、変化する社会情勢の動きへの理解を深め、ビジネス情報の活用力を強化するなど、イノベーティブな組織風土を作るための人財教育をいくらしても、職場環境にそれを許さないような風土があるならば、人財育成の効果は消失してしまいます。ハラスメントの状況確認と原因の追究は、企業風土監査の重要な対象のひとつです。

(6) 内部通報制度の形骸化

「活性化している状態の内部通報制度」を持っている企業は、不祥事発生を直ちに、自社の自律的な是正に繋げてゆく自動装置、且つ、違法行為に対する抑止力を保持している企業であると言うことができます。内部通報制度が根詰まりを起こすと内部告発(従業員による第三者への情報提供)を増やす可能性が高まります。企業内で不正が発生した場合に、経営上層部の認識がないままに内部告発がなされますと、企業による自浄作用を発揮する機会が失われ、更なる社会的信用の毀損を招くこととなります。多くの企業不祥事事例において、「企業⾵⼟」と「(従業員にとっての)内部通報制度への信頼性」との相関が指摘されており、「内部通報制度は活用できるか」、また、「活用できないと思う場合は、なぜ活用できないのか」については企業風土監査の対象事項として欠かせません。

(7) 自社の他部署との連携の必要性

こうして(1)~(6)の考慮すべき事項を見てみますと、執行役員レベルまでの意識調査が必要となることや、グループ会社の役職員への意識調査の有効性、人事総務部門が行う従業員意識調査や法務部門が行うコンプライアンス意識調査との関連性、取締役会への報告の必要性など、自社グループ内の多くの組織との連携の必要性が見えてくるものと思います。

¹ グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針 https://www.meti.go.jp/press/2019/06/20190628003/20190628003.html(2019年6月28日策定/経産省)P24の抜粋とありますが、以下の記述があります。
「グループ経営においては、各法人・事業部門の総和を超える企業価値を実現するため、シナジー(グループ全体の相乗効果)の最大化を図るべきであり、各社における財務的シナジーと事業的シナジーの最適な組合せを明確にしたうえで、その方針に応じたグループ設計やガバナンスの在り方が検討されるべきである。」


おそらく、かつてないほど内部監査は課題と機会の両方に直面しているものと思います。今こそ、内部監査は、組織文化を監査することによって組織体に価値をもたらすために独特の立場に位置付けられているとの自負を持ち、経営に貢献する企業風土監査を実施していただきたいと思います。

次回の第5講では、企業風土監査の手法についてお話しします。

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