第3講(全6講)企業風土監査の薦め
~企業価値の向上と毀損防止・企業変革へ向けて~

一般社団法人GBL研究所 理事
渡辺樹一(わたなべじゅいち)

本稿、第3講では、企業風土監査を行う内部監査部門が役職員への意識調査等を行う際に考慮すべき事項についてお話します。

目次

内部監査部門が企業風土監査に際して考慮すべき事項

(1) 組織の閉鎖性の弊害の程度の調査

「組織の閉鎖性の弊害」(サイロ現象)という言葉をご存じでしょうか。経営効率の観点から、組織の細分化、専門化を行うことは企業経営にとって不可欠ですが、細分化、専門家された組織への権限移譲の仕方によっては企業全体に大きな問題を発生させることがあるというのが「組織の閉鎖性の弊害」です。第1講図表1の鉄鋼大手E社の品質不正では、各工場で品質管理を完結させてしまったという組織の閉鎖性にも大きな原因があったと言われておりますし、同じく郵便G社では、リスクが持株会社に伝わらないという組織の閉鎖性の問題がありました。「組織の閉鎖性」は、以下のような弊害を引き起こすことがあり、自社の各組織で、同じような状況となっていないか、役職員への意識調査等にて調査することが肝要です。

①細分化、専門化された各組織内の従業員が、それぞれ自分の組織以外で 何が起きているのか知らず、 また、知ろうともしなくなる。

②自分たちの文化やルールが当然なものに思えてしまうため、それらについての 適切性や見直しの必要性などについてあらためて考える努力をしなくなる。

③組織としての部分最適を求める傾向となりがちになり、企業としての全体最適を追い求める視野を失う

④組織が過度に硬直化し、危険なまでに強固に根を張ると、リスクが 見逃され、また、魅力的なビジネスチャンスも見えなくなってしまう。

(2) 意識調査には従業員だけではなく、執行役員レベルを含めること

上記の組織の閉鎖性に関する風土・文化へ最も影響を与える者は、上級管理者であること、そして第1講(1)で述べた従業員の行動文化に直接影響を及ぼす「数値目標達成のプレッシャー」を掛ける責務を負っている者もまた、上級管理者であることから、執行役員レベルも意識調査に含めるべきです。そのためにも企業風土監査を実施するうえで経営トップのスポンサーシップを得ることが不可欠です。

(3) 他部門が行う従業員意識調査とは全く異なるコンセプトでアンケート調査を行うべきこと

内部監査部門が企業風土監査の手法として実施する役職員の意識調査は、以下のような他部門が行う従業員意識調査とは目的もコンセプトも異なる仕様とすることが大切です。

主として人事総務部門が行う従業員意識調査

経営理念やビジョンに対する意識、職場風土、職場での人間関係や意思疎通、仕事へのやりがいや意欲、業務負荷、直属の上司の仕事ぶりについての思い、人材育成や人事制度についての満足度等についての調査が毎年行われますが、通常、従業員がなぜそう思うのかについての調査はなく、企業が行うべき施策について、現場の意見は求めないという指向が見られます。また、各項目について会社の目指すところの伝達や、調査結果を踏まえた施策についての従業員へのフィードバックを行う企業は少なく、意識調査を行い、その結果について経年変化を含めて経営陣や取締役会に報告することが目的化していることが多いです。

主として法務部門が行うコンプライアンス意識調査

従業員の企業倫理、法令遵守に関する意識や組織風土についての現状を把握するとともに、従業員へそれらに対する「気付き」を与えて意識の高揚を図り、また、経年変化を確認することにより、コンプライアンス経営に関するこれまでの企業の取組みやその定着度合いを評価し、今後の活動の改善に繋げるという目的で行われますが、通常、人事総務部門が行う意識調査と同様、従業員がなぜそう思うのか、どうすれば良いと思うかについての問い掛けはなく、企業が行うべき施策について、現場の意見は求めないという指向が見られます。また、各項目について会社の目指すところの伝達や、調査結果を踏まえた施策についての従業員へのフィードバックはなく、意識調査を行い、その結果について経年変化を含めて経営陣や取締役会に報告することが目的化している向きが多いです。


次回の第4講では、「3.内部監査部門が企業風土監査に際して考慮すべき事項」の続きとして、役員間のコミュニケーションやハラスメント、内部通報制度の問題他を取り上げます。

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