
一般社団法人GBL研究所 理事
渡辺樹一(わたなべじゅいち)
第1講にて企業価値の向上と毀損防止に直結する企業文化に影響を与えているものは何かについて見てみました。本稿、第2講では、企業風土監査は、何を目指すべきかについてお話し致します。
企業風土監査が目指すもの
コロナ禍の中、経営者の関心事が、現在の緊急対応から、会社を再成長させるまでいかにして組織を再開発しスピードをもって経営を立て直してゆくかにあり、「よりイノベーティブで生産性の高い企業風土へ向けて組織の再開発を図りたい」とする場合、その命を受けて企業風土監査を行う内部監査部門が先ず明確化すべきことは、自社が目指す企業文化、企業風土、組織の在り方とはどのようなものかを把握することです。
どの企業にもある、企業倫理や行動規範は、「企業文化はかくあるべし」ということを表しているにすぎず、企業文化は従業員による物事の捉え方に存在する「物事のやり方の実態」と考えることができます。¹ 内部監査部門で活躍されている皆様も、業務監査を行っている際に、監査上の課題について十分深堀すると、その根本的原因として組織文化の課題に行き着くことがしばしばあるのではないでしょうか。² 内部監査部⾨は、自社の企業⽂化(物事の捉え方の実態)と社会や事業環境の変化とのギャップを常に注視して組織の経営に対して啓発してゆかねばならない立場にあることを自負して、経営トップのスポンサーシップを得ることが企業風土監査の要諦となります。³
図表2は、過去6年間に公開された不祥事事例で見られた企業文化の内容を参考に、「企業価値が毀損する組織」と「企業価値が向上する組織」を対比させ、企業が目指す企業文化を具体化した例の一つとして筆者がまとめたものです。

さて、例えば、図表2の右側に記したような、自社の企業風土の目標設定を経営トップのスポンサーシップの下で⾏ったとして、その後に次のステップで⾏うべきことは何でしょうか。それは、役職員への意識調査⁴やヒアリング等により自社の風土の現状を測定し、目標との乖離を明確化し、目標とした風土の醸成、再構築に着手して、それを取締役会レベルでモニタリングを行って対応してゆくことです。ここで是非、知っておいていただきたいことは、企業風土に関する取締役会の役割です。
コーポレートガバナンスコードの原則2-2(会社の行動準則の策定・実践)⁵では、行動準則の策定・改訂の責務を担うのは取締役会であると明記されているのですが、その補充原則2-2①では、「取締役会は、行動準則が広く実践されているか否かについて、定期的にレビューを行うべきである。その際には、実質的に行動準則の趣旨・精神を尊重する企業文化・風土が存在するか否かに重点を置くべきであり、形式的な遵守確認に終始すべきではない。」としています。企業文化や風土を評価するにはどのような指標に注視し、どのように測ればよいのかなど現実的に難しい面がありますが、実務上は、定期的に①役職員にアンケート調査などを実施し、行動準則の認識度、理解度や遵守状況について確認し、②管理職に同じくアンケート調査などを実施して、所管部署での行動準則の周知徹底の実施や遵守状況の報告をさせるなどにより行動準則の実践状況について取締役会に報告し、今後の取組方針について審議する、といった方法が考えられます。
¹ このことは、昨今の地方銀行や郵便事業、その他毎年繰り返されている有名企業の不祥事を見ても明らかである。
² 内部監査において「不適合」や「気付き事項」を発見した場合に、最も大切なのは「なぜ発生したのか」を突き詰めることにある。例えば従業員が社内ルールを知らなかったのであれば、それを周知徹底する方策が必要であり、また、社内ルールに反すること知っていながら敢えて行ったケースでは、社内ルールそのものの陳腐化や遵守できない何らかの理由がある場合があり、その根本的な原因を明らかにし、対応策を講じなければ、不適合が繰り返されることとなってしまう。
³業界や組織の慣行を旧来のまま引きずっている企業においては、往々にして説明責任の制度化を阻む企業文化があり、それは組織階層に対応して責任転嫁を容易にする、あるいは権限行使についての説明責任が問われないような企業文化を伴うことが多い。(談合などはその典型例と言える。)経営者がそのことを良く理解し、そういった状況を放置せず、そのような慣行に正面から向き合うことが望まれる。
⁴ なぜ「従業員への意識調査」ではなく「役職員への意識調査」としているのかについては、次回の第3編をご参照。
⁵ コーポレートガバナンスコードの【原則2-2 会社の行動準則の策定・実践】の記述は以下の通りである。
「上場会社は、ステークホルダーとの適切な協働やその利益の尊重、健全な事業活動倫理などについて、会社としての価値観を示しその構成員が従うべき行動準則を定め、実践すべきである。取締役会は、行動準則の策定・改訂の責務を担い、これが国内外の事業活動の第一線にまで広く浸透し、遵守されるようにすべきである。」
本原則が言う「行動準則」には、「企業行動規範」や「企業行動指針」、「企業倫理基準」などが該当し、ほぼ全ての上場会社は既に定めているものである。
次回の第3講では、企業風土監査を行う内部監査部門が監査の手法として役職員への意識調査等を行う際に考慮すべき事項についてお話したいと思います。