IIA国際基準の考察(1230 ─ 継続的な専門的能力の開発)

本稿では、IIAの内部監査の専門職的実施の国際基準(以下、IIA国際基準)の考察を行っています。IIA国際基準は、アシュアランス業務とコンサルティング業務の両方を対象としていますが、本稿では主にアシュアランス業務を中心に考察を行っています。

目次

基準1230の概要

基準1230では、次のように内部監査人の継続的な専門的能力(以下、専門性)の開発について定めています。

1230 ─ 継続的な専門的能力の開発
内部監査人は、継続的な専門的能力の開発を通じて、「知識、技能およびその他の能力」を高めなければならない。

出所:IIA国際基準

能力開発の方法

具体的な能力開発の方法としては、一般的には次のアプローチが挙げられます。

①人材ポートフォリオの整備
②中長期・年間の成長目標・ロードマップの設定(KPI管理含む)
③教育・研修の実施
④資格取得の奨励・補助
⑤内部監査人に対するフィードバック

出所:内部監査.info

①人材ポートフォリオの整備

人材ポートフォリオとは、自らの部門にどのような人材がいるのか、どのような能力や経験、資格などを持っているのか、年齢構成はどうなっているのか、などの基本的な情報を整理するものです。具体的には、例えば、上記の情報を一覧表にまとめることが挙げられます。人材ポートフォリオは、内部監査部門に所属する内部監査人の総数が20名を超えるあたりから効果を発揮します。人材の能力や経験などの把握はもとより、個別監査の計画時に最適なチーム構成を検討するためにも活用することができます。

参考リンク:人材ポートフォリオの例①

参考リンク:人材ポートフォリオの例②

②中長期・年間の成長目標・ロードマップの設定(KPI管理含む)

人材ポートフォリオの整備ができた後は、内部監査部門としての中長期・年間の成長目標・ロードマップの設定します。具体的には、まず、中期監査計画や年間監査計画を上位概念にして、その目標・ゴールを実現するにあたり、人的な側面からの課題・問題点を識別します。そのうえで、部門としての現在の姿と一年後または数年後に成長した姿を置き、その工程をいくつかに分割します。実現にあたっては、CIAやCISAなどの資格取得者数や研修回数などをKPIにして管理することも有効です。

③教育・研修の実施

人材育成のロードマップを整備した後は、全体向けの集合研修や個人向けの教育研修を実施します。研修の種類には、具体的には、例えば、次ような種類があります。

(1)内部講師による社内研修
(2)外部講師による社内研修
(3)外部セミナーや外部研修会への参加を通じた研修

出所:内部監査.info

重要なことは、研修の効果を測定することです。具体的には、例えば、内部監査部門の課題が「根本原因の分析」だとします。その場合のKPIとして「継続的モニタリングによる表面的な原因分析の指摘数」を設定することができると思います。一年間の研修を行った結果、上記のKPIが良化しているのか、横ばいなのか、悪化しているのかを測定から評価することができます。

④資格取得の奨励・補助

資格取得の奨励・補助については、多くの内部監査部門で取り組みが行われています。一般的な方法としては、内部監査部門長が取得を奨励する資格を明示したうえで、取得の奨励を行い、金銭的な補助を行うものです。具体的には、例えば、次のような資格の取得奨励や金銭的な補助が一般的です。

①資格名
・公認内部監査人(CIA)
・公認情報システム監査人(CISA)

②補助内容
・合格時に取得に係る費用の実費を支払う、または、
・合格時に合格祝い金を支給する
・年会費の実費を事後精算する

出所:内部監査.info

このほか、業界や事業特性に応じて、金融であれば、公認アンチマネーロンダリングスペシャリスト(CAMS)などが挙げられます。

⑤内部監査人に対するフィードバック

人材育成における重要な要素として、内部監査人のパフォーマンス(業務上の能力発揮)に対するフィードバックがあります。具体的には、次のような方法でフィードバックを行います。

①半期ごとに期初目標の達成度への評価をフィードバックする
②個別監査が終了するごとに良い点・課題をフィードバックする
③一年に一回、360度評価を行う

出所:内部監査.info

内部監査人に対してのフィードバックを行うにあたっては、監査人としての成長を実感できる評価の仕組みにすることが大切です。それにあたっては、内部監査部門で共通した能力フレームワークを用意することがポイントになります。内部監査人の能力フレームワークとしては、IIAのコンピテンシーフレームワークが挙げられます。但し、内容が抽象的であること、海外の文化が前提となっていることなどから、日本企業がそのまま採用するのは難しいかもしれません。

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